気分が晴れずに落ち込んだり、悲観的になったり…。そんな症状で悩む方は、気分にかかわる「セロトニン」という神経伝達物質のはたらきに異常が出ている可能性があります。そんなときに病院で処方されることがあるのが「セルトラリン」というお薬です。
ここでは、セルトラリンについて詳しく解説。服用したときの効果や副作用、問題点についてもふれています。
セルトラリンとは一般名で、「ジェイゾロフト」という薬品名で処方される、うつの改善を目指す薬です。脳内のセロトニン濃度を高める「選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)」に分類されます。
1日1回を服用するだけで良く、他のセロトニン再取り込み阻害剤よりも強力なため、うつ病の主要薬として広く処方されるようになりました。
2015年12月からはジェネリック医薬品としても発売されています。
抗うつ作用のほか、不安な気持ちをやわらげる効果もあることから、パニック障害や外傷後ストレス障害(PTSD)の治療薬としても使われます。
また、生理前にイライラしたり気分が不安定になったりする「月経前症候群(PMS)」で悩む女性に応用されることもあります。
うつ状態を改善させ、気分を楽にする効果があることから、やる気が出ない、集中できない、眠れないなどのうつ症状に悩む方に適応します。また、意欲を高め、気持ちが前向きになるのを助けます。
脳内のセロトニンの濃度を一時的に高めて、不安な気持ちを落ち着かせる効果があります。うつ病やうつ状態では、とくに不安感の強い方に処方されます。
強い恐怖感が不安障害を引き起こすこともある「外傷後ストレス障害(PTSD)」の症状に使われることがあるほか、突然、理由もなく動悸や発汗など「死んでしまうのではないか」と思うほど強い発作が起こる「パニック障害」の治療薬としても使われます。
セロトニンが脳の神経回路「シナプス」に放出されると「セロトニン受容体」にたどり着きます。しかし、セロトニン受容体はすべてのセロトニンを受け取れきれず、あまったセロトニンはシナプス周辺にただよってしまいます。
すると、あまったセロトニンの一部は分解され、「セロトニントランスポーター」に回収されて再利用のために神経終末へ取り込まれようとします。
そのセロトニントランスポーターの再取り込みを阻害するのがセルトラリン(ジェイゾロフト)です。再取り込みを阻害することでシナプスのすき間のセロトニン濃度が上昇し、神経伝達がスムーズになることで抗うつ作用がもたらされます。
セルトラリンを含むSSRIは、セロトニンを放出するシナプスの「セロトニントランスポーター」に選択的に作用するため、セロトニンだけを絞って増加させる効果があります。
一方で、セロトニンには神経伝達物質「ノルアドレナリン」の作用を調整するはたらきがあります。「パニック障害」に対してセルトラリンが処方されるのも、パニック障害がノルアドレナリンに関与する神経異常によって起こるとされているからです。
セルトラリンはセロトニン神経系以外には作用しないため、従来の抗うつ剤に比べて副作用が少ないとされていますが、まったく起きないというわけではありません。次のような副作用があることは服用前に知っておく必要があります。
服用開始初期に多く見られるのが下痢や吐き気、食欲不振などの胃腸障害です。セロトニンが刺激されることが原因と考えられていて、脳だけでなく胃腸にも作用してしまった結果、症状が引き起こされる可能性があります。
これらの副作用は吐き気止めや整腸剤などの併用で症状が緩和されることがありますので、胃腸の症状がつらい時には我慢せず医師に相談しましょう。
セルトラリン(ジェイゾロフト)の飲み初めに起こりやすいのがアクチベーションシンドローム(賦活症候群)です。気分が高揚してじっとしていられなくなったり、逆に不安感が増して不安や焦りが高まって、衝動的にリストカットなどの自殺企図をしてしまうことがあります。
万が一このような症状が見られた場合には、すぐに薬を処方した病院を受診し、医師と相談して薬を中止または減量するか、別のお薬に切り替える必要があります。
脳内のセロトニン濃度が過剰になることによって「セロトニン症候群」が起こる可能性があります。服用中に手足が震える、汗が出るなどの異常がみられるほか、嘔吐や下痢、脈が速くなる、高熱がでる、錯乱する、血圧が上昇するなどの症状も見られます。
ごくまれな副作用ではありますが、このような症状が現われたらすぐにセルトラリンの服用を中止して、医師のもとを受診しましょう。
セルトラリン(ジェイゾロフト)を服用してうつや不安症状が改善し、減量していく場合には、離脱症状に注意しなくてはなりません。他の向精神薬に比べて離脱症状が多くはありませんが、長期間服用していると体や脳が慣れてしまいます。その状態で急激に薬を減らしてしまうことで、心身に不調が起こることがあります。
離脱症状は服用をやめてから2週間ほどで収まることが多いですが、数か月単位で続くケースもあります。自己判断で薬を減らしたり服用をやめたりせず、必ず医師と相談の上で少しずつ減薬していくことが大切です。