ゆううつな気持ちをとりのぞき、多幸感をもたらしてくれるセロトニン。セロトニンは脳内の自律神経の働きをつかさどっていて、痛みの感覚にも深く関わっているのをご存知でしょうか。
ここでは、セロトニンと痛みの関係性について詳しく解説しながら、セロトニン活性化を利用した鎮痛治療や研究についてまとめました。
うつ状態になると、体の痛みを感じやすくなると言われています。これは、「痛み」そのものがうつ症状としてあらわれるのではなく、セロトニンやノルアドレナリンといった「神経伝達物質」の低下によって、痛みを抑制する機能が低下するからです。
ストレスを抱えたままの状態が続き自律神経が乱れると、自分では気づかないうちにセロトニン不足が起こりやすくなります。
すると、ささいなことで痛みを感じたり何日も痛みが引かなかったりと、痛みを抑制する機能が失われてしまいます。
精密検査をしてもとくに異常が見られないのに体の一部分に痛みが続くようなケースを「慢性痛」や「疼痛」といい、精神的要因がかかわっていることが多いとされています。
痛みは、刺激を受けた部位によって発生した電気信号が皮ふや関節、骨、筋肉、内臓などにある「受容器」から脊髄を通って脳にまで伝わることで感じます。
このとき、脳内では過剰に感じる痛みの伝達を抑えるシステムが働いています。そのシステムをつかさどっているのが、神経線維内にあるセロトニン神経とノルアドレナリン神経です。
セロトニンやノルアドレナリンがあまり分泌されていない人はこのシステムがうまく働かず、痛みを過剰に感じやすく、痛みも長引いてしまいます。
慢性痛が「精神的な要因」の可能性を指摘されることがあるのは、脳の神経線維内のセロトニンやノルアドレナリン不足が考えられるからなのです。
慢性痛を持つ人は30~50代に多いことがわかっています。慢性的なストレスを抱える働き盛りの世代に多いのは、ストレスによって十分にセロトニンが分泌されていない可能性が考えられるでしょう。
また、テレビやコンピューター、ゲームなどの過度な使用や夜更し、運動不足もセロトニン低下が起こりやすい環境です。不規則な生活をしていると気づかないうちに体への負担がストレスとなり、セロトニン不足が起こってしまいます。
一方で、慢性痛は子どもから高齢者まで幅広い年代にも見られています。とくに仕事や家庭でストレスを感じていなくても、日ごろの生活習慣や環境がセロトニン低下を招いていないか、振り返ってみることも大切です。
リウマチなどの慢性的な炎症による病気を除き、慢性痛には、一般的な痛み止めを処方しても効果がありません。軽度の運動やマッサージ、ストレッチなどで改善する場合もありますが、よくならないケースには治療薬が使われます。
このとき、精神的要因や心理的影響が考えられる慢性痛には、抗うつ薬が用いられることもあります。
これまで、日本では慢性痛・慢性疼痛に対する抗うつ薬の使用は健康保険の適応外でしたが、2016年に認められるようになりました。
ここでは、主にセロトニンに関与して痛みをやわらげる治療薬について紹介します。
脳に作用して、セロトニンやノルアドレナリンが放出された後に再び戻れないようにし、受容体の近くに漂わせることで情報の伝達を活性化させる薬です。
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤ともよばれ、慢性腰痛の治療などに使われています。うつ状態などの精神的要因が強く関与する痛みに対し、とくに効果があらわれやすいのが特徴です。
末梢レベルでの神経障害性疼痛に対して処方されます。セロトニンやノルアドレナリンが放出された後に再び戻れないようにする点ではSNRIと同じで、片頭痛、群発頭痛や腹痛、線維筋痛症などの症状に広く使用されています。
TCASもSNRIと同様、即効性はないものの、服用から約2週間で徐々に効果があらわれるとされています。
「体の痛み」は、何らかの原因によって生じている、慢性化しているケースも往々にしてあります。実際に病気が潜んでいる場合もあるので、すべての痛みにおいて「心因的なもの」と決めつけてしまうのは危険です。
抗うつ薬を処方される疾患には限りがあり、ある程度「痛みと付き合わなくてはならない」と医師が判断した場合のみということを覚えておきましょう。
痛みを感じているのに「気のせいかも」と自己判断したり「またいつもの痛みだ」と放ったりせず、まずは医療機関でしかるべき検査や診断を受けることが大切です。