脳内セロトニンが活性していると幸せな気持ちになり、逆に不足してしまうと不安を感じやすくなります。
このように人間の「心」に関わることから、セロトニンが主に脳内でつくられるイメージを持たれる方も多いでしょう。
ですが、脳だけでなく腸内でもセロトニンがつくられているのをご存じでしょうか。
実はセロトニンといえば腸内セロトニンの方が医学的には一般的だったのです。ここ十数年で脳内の神経伝達物質としてセロトニンが分泌されていることがわかりました。
ここでは、脳内セロトニンと腸内セロトニンの関係性について解説しています。
目次
体内にあるセロトニンは約10mgと言われています。その約90%が腸内に存在しており、8%が血液中、そして残りの2%が脳内にあります。
腸にセロトニンが多いことを踏まえると、腸内でつくられたセロトニンが脳に運ばれるのでは?と考えがちですが、実際に腸でつくられたセロトニンは脳に運ばれるわけではありません。
セロトニンは、トリプトファンという必須アミノ酸から5-HTP(5ヒドロキシトリプトファン)になり、その後に合成されるます。
食事でとれるトリプトファンがセロトニンに変わるときにビタミンB6を必要としますが、そのビタミンB6を合成しているのが腸内細菌です。
腸内のセロトニンは腸内細菌のはたらきによってつくられていて、主に腸の蠕動運動にかかわるとされています。
体内には、脳にとって有毒なものや要らないものを通過させないために「血液脳関門」というフィルターの役目をする機能があります。
腸で合成されたセロトニンは、この血液脳関門を通過できません。
セロトニンに合成される前のトリプトファン、5-HTP(5ヒドロキシトリプトファン)だけが通過できます。脳内のセロトニンは、この5-HTPが脳内で合成されたものです。
腸でつくられたセロトニンがフィルターを通れないのは、脳内のセロトニン濃度が高くなりすぎると問題が起きるためです。
脳内のセロトニンが高まりすぎると、体温や血圧が上昇する、発汗、動悸やふるえ、下痢などの自律神経症状がみられる「セロトニン症候群」を発症してしまいます。
腸内セロトニンが脳に運ばれないからと言って、脳の働きに対して何も関与していないわけではありません。
腸内のセロトニン濃度の情報が神経を通して脳に伝わることで、自律神経の働きに影響を与えています。
たとえばストレスや疲れで自律神経が乱れ、腸の働きが低下して便秘や下痢になります。すると腸の神経が、セロトニンを分泌してきちんと動くように刺激し、副交感神経の働きが亢進します。一方、脳ではストレスによりセロトニンが不足している状態になってしまうと交感神経の働きが亢進してしまいます。
このように、脳と腸は自律神経を介して情報のやり取りをし、常に交感神経と副交感神経のバランスをコントロールしています。
脳と腸は自律神経やホルモンを介してつながっています。「腸は第2の脳」とよばれるほど、腸と脳は互いに深い関わりがあるのです。
これまで、脳が腸のはたらきに影響を与え、逆に腸も脳に影響を与えていることが分かっていきました。
緊張したときに急にトイレに行きたくなったり、ストレスを感じるとお腹が痛くなったりする「過敏性腸症候群」がありますが、これも脳と腸が神経ネットワークでつながっているためです。
とくに腫瘍や炎症などの異常は見られない機能的な疾患では、心理的な要因により自律神経や神経伝達に問題があるからとされています。
過度なストレスが加わって心身がバランスを崩してしまうのは、脳や腸そのものだけではなく、腸から脳への信号伝達にも異常が生じているサインなのです。
アメリカのマウスを用いた実験では、腸内細菌の多いマウスはセロトニン濃度が高く、逆に腸内に細菌がいないマウスでは脳内セロトニン濃度が低いという結果が示されました。
腸内細菌の存在がセロトニン合成にどんな影響を与えているかはまだ明らかになっていませんが、腸内細菌が存在しているか否かによって、脳内のセロトニン量が変化することが証明されています。
腸内細菌の研究結果から、腸内セロトニンが活性すると脳内セロトニンを保ち、バランスを維持することにつながっていることが分かります。
食生活の改善でセロトニンを活性したいと考えている方は、トリプトファン多く含んだ食材に加えて善玉菌を活性化する発酵食品なども意識して取り入れてみてはいかがでしょうか。