セロトニンは、小腸の粘膜を中心に血小板や脳に存在していますが、なかでも大脳において重要な役割を果たしています。
最近の研究では、とくにうつ病の人の大脳ではセロトニン分泌量の低下が見られることから、ストレスや精神疾患には脳内のセロトニンが大きく作用しているのではないかとされ、今も研究がすすめられているところです。
ここでは、脳のセロトニンによる体への作用やはたらきについてまとめました。
脳の外側にある大脳や中間部の下、脳の根っこにある「脳幹」という部分の縫線核にセロトニン神経があり、数万個のセロトニン神経細胞がセロトニンをつくっています。
脳には約1,000億個もの神経細胞があるため、セロトニン神経細胞が脳に占める割合はごくわずか。ですが、セロトニンは脳全体に分泌されているため、占める割合は小さくても体全体の作用に大きくかかわっています。
心身に不調があらわれる原因は、脳や神経の各部位でセロトニン分泌が低下しているから、といわれるのはなぜなのでしょうか。大脳のセロトニン神経でつくられたセロトニンは、体のさまざまな場所で作用しています。代表的なところをまとめたので、基礎知識の参考にしてください。
大脳の大半を占める「大脳皮質」ではセロトニンが分泌されていて、脳を最適な覚醒状態に導いています。大脳皮質には前頭前野があり、大脳皮質のおよそ1/3は前頭前野です。前頭前野は考える・記憶する機能のほか、感情をコントロールする機能を持っています。人間にとって重要な役割を持つ場所であり、セロトニンが適切に分泌されているかは非常に大切です。
大脳の内側には大脳辺縁系という部分があり、食欲や睡眠欲、意欲などの本能的な欲求をつかさどっています。ここでセロトニンが分泌されると平常心が生まれ、おだやかな心理状態となります。また、大脳辺縁系のセロトニンが十分にあると集中力がアップして、イライラした気持ちを抑えます。
自律神経は、活動しているときに働く「交感神経」と、寝ているときに働く「副交感神経」からなっており、セロトニンはこの2つの自律神経を調節したり活性化させたりする役目を持っています。
セロトニンがうまく分泌されていると、朝目覚めたときに交感神経が優位に変わり、活動しやすくなります。
しかし、セロトニン分泌が低下すると、朝起きたときにいつまでもだるく感じてしまい、スッキリと起きられなくなってしまいます。また、自律神経の乱れによって心身にさまざまな影響を及ぼします。
人間には、脳で過剰な痛みの伝達を抑えるシステムで、痛みを感じにくいようにする機能が備わっていますが、その制御にはセロトニンがかかわっています。セロトニン神経からセロトニンを放出することで、痛みで興奮している神経に働きかけて抑制をかけます。セロトニンはいわば、鎮痛剤のような役割を持っているのです。
セロトニン分泌が不足していると、この鎮痛剤の役目をうまく果たせなくなってしまい、痛みを敏感に感じやすくなります。また、痛みがなかなか引かなかったり慢性的に痛みを感じたりすることも。最近では、抗うつ剤として使われている薬が痛み止めとしても役立つことが注目されはじめています。
重力に逆らって体を支えるのに必要な筋肉を「抗重力筋」または姿勢筋とよびます。セロトニンはこの抗重力筋ともかかわっています。
しっかりとセロトニンが分泌されていると姿勢が良く保たれ見た目も美しくなりますが、セロトニンが不足すると背中が丸まり、猫背など姿勢が悪い状態に。副交感神経が優位になり、脳が寝ている状態と思い込んでしまうことで起こります。
大脳皮質の前頭前野では、「考える」「記憶する」「感情をコントロールする」などのさまざまな機能をつかさどっています。
うつ病の人の脳内は、健康な人に比べてセロトニンが低下していることから、セロトニンが前頭前野のストレスを調整する役割を持っているのでは、と考えられています。
前頭前野は、計算や一時的な記憶、抽象的な思考の想起、集中力を高めるなど、高度な認知機能を果たす役目をいくつも持っています。
ストレスを抱えると、前頭前野にある神経から信号を受け止めるための「樹状突起」を萎縮させてしまいます。一時的なストレスの場合には、しばらく経てば元に戻りますが、ストレスが強い場合だと簡単にはいきません。
また、慢性的なストレスによって前頭前野が萎縮した状態が続くと、樹状突起の回復能力が失われてしまいます。一度脳内に変化が起こってしまうと、それ以降のストレスにさらに弱くなってしまい、うつや依存症、精神障害につながりやすくなると考えられています。
強いストレスを感じた際にはすぐにストレスから遠ざかるなど、長引かせないための対処が大切です。